JAPAN MEDIA ARTS FESTIVAL

海外メディア芸術祭等参加事業

こちらのイベントは終了いたしました。

マタデロ・マドリード 

1月20日(水)から1月31日(日)までマドリード市の文化複合施設マタデロにおいて文化庁メディア芸術祭企画展「Crazy Planet: Ghosts, Folk Monsters, and Aliens in Manga – An aspect of Japanese Media Arts–」(習合のファンタジー:日本メディア芸術の一断面)を開催しました。異質な文化が混じり合って共存する「syncretism(習合)」という言葉をキーワードに、妖怪や宇宙人、民話の登場人物といった、異次元のキャラクターが日常生活の中に現れるマンガ作品を通じて、地球上のさまざまな文化から影響を受け、混じり合って醸成された日本特有の表現を、インディペンデント・キュレイターの金澤韻氏が選出した7組の作家による作品を通じて紹介しました。1月20日(水)に行われたオープニングには、120名程の来場者を迎え、在スペイン日本大使館越川大使はじめ、マドリード市文化局顧問メンデス氏、文化庁横尾係長、国際交流基金マドリード日本文化センター吉田昌二所長、NHKインターナショナル原田理事長、企画ディレクター金澤氏が挨拶しました。

展覧会の模様はスペイン主要メディアに大きく取り上げられ、会期中は連日多くの家族連れの来場者でにぎわい、10日間で10,378人を集客。1月24日(日)には企画ディレクターによるギャラリーツアーを開催し、102名が参加しました。同日午後にはスペインの日本文学研究者2名と出展作家ひらのりょう氏によるトークイベントが開かれ、定員を大幅に上回る来場者が参加。トークイベント後に行われたアニメーション上映会でも大勢の方が日本の短編アニメーションやミュージックビデオなどを楽しみました。本展覧会について、会場となったマタデロ担当者からは「漫画という切り口が若年層の関心を集めたと同時に、漫画をアートの視点から捉え直すという新しいアプローチが多くの観客の関心を惹き、展覧会を成功に導いた」とのコメントが寄せられました。 世界三大美術館の一つである、プラド美術館をはじめ多くの美術館や博物館を有し、ピカソやダリ、グレコなど数多くの著名画家を輩出しているスペイン。夕方や週末には多くの美術館が無料で開放されるなど、芸術文化が市民生活の一部として根付いています。今回の会場となったマタデロ・マドリードも週末は憩いの場として多くの市民が訪れており、漫画好きのファンだけでなく、多くの一般来場者が一つ一つの作品を丁寧に鑑賞している姿が印象的でした。

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概要

文化庁海外メディア芸術祭等参加事業 企画展
「Crazy Planet: Ghosts, Folk Monsters, and Aliens in Manga – An aspect of Japanese Media Arts–」(習合のファンタジー:日本メディア芸術の一断面)
会場: マタデロ・マドリード Nave 16 Plaza de Legazpi 8, 28045 (スペイン・マドリード市)
会期:2016年1月20日(水)〜1月31日(日) (月曜休館)
*オープニングレセプション 1月20日(水)19:00〜
入場料:無料

主催:
文化庁
共催:
マタデロ・マドリード、国際交流基金マドリード日本文化センター  
後援:
在スペイン日本国大使館  
企画ディレクター:
金澤韻 (インディペンデント・キュレイター)
事業アドバイザー:
吉岡洋(京都大学大学院文学研究科教授/美学・芸術学)
毛利嘉孝(東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科准教授/社会学)

参加者の声

金澤 韻

(マタデロ・マドリード企画展「Crazy Planet: Ghosts, Folk Monsters, and Aliens in Manga – An aspect of Japanese Media Arts-」ディレクター)

スペインの主要メディアが大きく報道した効果もあり、たくさんの方にご来場いただき嬉しく思いました。一番うれしかったのは、多くの方から、「いわゆるマンガの展示だと思って来たけど、違うんだね。現代美術と同じフィールドだ。」というコメントを頂いた事です。私は常々、このカルチャーが有する一部分が生活と、歴史と、人生と、繊細な感情と、そして文学や美術とかたく結びついていること、芸術の一分野であり、人間として語りたいことは変わらないのだということを見せたいと思っていました。単なる愛好家の内輪受けに終わらず、ある文化の良さと共にその向こうに見える他文化他社会とのつながりを、本展示で発信することができました。

展覧会コンセプト 

ディレクター 金澤 韻

高橋留美子『うる星やつら』(1978—1987)は、宇宙人、妖怪、土俗の神々、時間旅行者、幽霊、民話の中の人物が日本の平凡な町の高校生である主人公の恋の相手役として次々と登場するコメディだ。1970年代社会変革への不信と幻滅から生まれたとも言われるこの奇想天外なSF作品は、中国文化から近代における西洋文化、戦後のアメリカ文化、大量消費社会文化のそれぞれの影響を受け、過度に混交した日本の表象世界を表す、よいサンプルとなっている。この作品はその後、日本の漫画、アニメ、ライトノベル等のカルチャーに大きな影響を与えた。
本展はそのような異次元が交錯する日常を描いた一群からいくつかの作品を紹介し、日本における視覚芸術の一断面を紹介する。また最新の例であるひらのりょう作品を大きく取り上げ、現代のインスピレーションの一端を繙く。私たちのネット接続された現代世界では、このようなイメージの混交はどの国にあっても親近感を覚えるものになっているかもしれない。

金澤韻/KANAZAWA Kodama
インディペンデント・キュレイター。 マンガ、ニューメディアアートを含む日本と世界の現代美術を扱い、国内外で現代美術館のキュレーティングを行う。

作品展示 

マンガ、アニメーション、インスタレーションから成る、ひらのりょうの世界


『パラダイス』
[2013/短編アニメーション(20分)]

宇宙に浮かぶ霊園、日本のどこかの町、アジアのジャングル、洞窟、カフェ。めまぐるしく入れ替わっていく舞台に登場する、若い男と鼻を怪我したクマ、日本兵、歯、そして裸の女・・・。脈絡のないシークエンスが積み重なっていき、私たちは不連続なナラティブに惑う一方で、筆致や息づかい、そして風景に、強い懐かしさを覚えます。心の中に関連する記憶を呼び戻し、作家の見せる光景に重ねて、私たちはそれぞれに文脈をつむいでいきます。

五島一浩
© 2013 Ryo Hirano/FOGHORN
『ホリディ』
[2011/短編アニメーション(14分16秒)/第15回アニメーション部門審査委員会推薦作品]

山々を繋ぐロープウェイが行き交う、どこかひなびた空気の漂う行楽地。そこに登場するのは、耳に姿を変えてしまう女の子、黄色い姿の裸の男、猫と人間のように歩くイモリ。水が流れる、水を飲む、雨が空から降る、湖に波が寄せるなど水の循環を縦軸に、思慕を寄せる女性との間に起こる憧れの感情、緊張、衝突などを横軸に、時空を切り貼りした描写は、鑑賞者を不可解でありならも忘れ難い共感へと誘います。

Temps mort
©RYO HIRANO
『ファンタスティックワールド』 

地球空洞説を下敷きにしたウェブ漫画(連載中)。地中世界に取り残された地上世界の人間「ビコ」と親友の「歯ちゃん」が様々なキャラクターや出来事に出会っていく冒険物語。人物造形の奇想天外さに驚かされつつも、友情や勝利といった古典的なストーリーテリングに思わず引き込まれる、王道と最先端を同時に感じさせる作品です。

水江未来
©LEED PUBLISHING CO., LTD ©ryohirano/FOGHORN
『とびだせ!ミラーボールちゃん』
[2015/GIF2D]

伝説のミラーボール職人の手から生まれた不思議な生物、ミラーボールちゃんの冒険を描いたウェブマンガ。GIFアニメのテクニックを用いた単純な動きの繰り返しと、マンガのコマ割りのタイミングが絶妙に重なり、独特で楽しいリーディングのリズムを読者に与えます。

水江未来
©Ryo Hirano/FOGHORN/GIFMAGAZINE

ひらのりょう/HIRANO Ryo

1988年埼玉県春日部市生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。産み出す作品はポップでディープでビザール。文化人類学やフォークロアからサブカルチャーまで、自らの貪欲な触覚の導くままにモチーフを定め作品化を続ける。その発表形態もアニメーション、イラスト、マンガ、紙芝居、VJ 音楽 と多岐に渡り周囲を混乱させるが、その視点は常に身近な生活に根ざしており、ロマンスや人外のものが好物。

「うる星やつら」から現代まで、複数の文化や時空間が交錯する作品群


『うる星やつら』
高橋留美子[1978〜1987(週刊少年サンデー)/コミック]

地球の命運を賭けた「鬼ごっこ」の地球代表に選ばれてしまった高校生の諸星あたるは、鬼族代表のラムと鬼ごっこの末に勝利しますが、ラムは諸星家にあたるの妻として住み着き、彼女の友人や親戚をはじめ宇宙や異次元の住人が彼らの住む友引町に次々とやってくることになります。日本を代表する人気漫画家、高橋留美子の初連載作品である『うる星やつら』には、宇宙人はもちろん、幽霊、民話の登場人物、土俗の神様などあらゆる位相に属するキャラクターが登場します。彼らの織りなすコメディーは軽妙で斬新であり、その後数々の漫画、アニメーション、小説などに影響を与えています。

©高橋留美子/小学館
『夜の魚』
吾妻 ひでお  [1992/コミック]

『夜の魚』はカルト的人気を誇る作家、吾妻ひでおの私小説的作品。主人公の友人や、町ですれ違う人々は、動物とも虫とも妖怪ともとれるような異形のものとして描かれています。魚が家の中を泳ぎ、風呂には巨大ナメクジが棲息し、ミサイルが理由もなく追尾してくるような日常は、作者の荒廃した精神状況のメタファーであるとともに、さまざまな視覚情報が入り乱れた日本の街の姿と、そこに暮らす人々のメンタリティを表象しているとも言えます。

©吾妻ひでお/太田出版
『ナンバーファイブ 吾』
松本大洋 [2000〜2005(月刊IKKI)/コミック/第7回マンガ部門審査委員会推薦作品]

約7割が砂漠となった、遠い未来の地球が舞台。人工的に作り出された生命体で構成された軍隊「平和隊」の 幹部9人を中心に据えた、命と愛情をめぐる人間ドラマです。機械や動物の造形、ファッション、街や世界の情景に、世界各地の民族衣装、伝統的な造形、民話、アニメなどあらゆるソースからの引用が用いられています。そのため未来という設定ではありますが、過去のようでも、また異星のようでもある、独特の世界観が見る者をとりこにします。

THE CAPTCHA PROJECT
©松本 大洋/小学館
『第七女子会彷徨』
つばな[2008〜連載中(月刊COMICリュウ)/コミック/
第17回マンガ部門審査委員会推薦作品]

亡くなったクラスメイトが“デジタル天国” に生きていたり、入学と同時に友達を学校に決められてしまったりする、普通の世界とは異なる奇妙な世界で暮らす、ごく普通の女子高生「金やん」と「高木さん」を描いた作品。時に未来からパトロールが来たり、異生物が紛れ込んで来たり、鏡の中の世界に閉じ込められたりと不思議な出来事が起こりますが、のんびりとしたテンポの毎日の中で、女子高生たちはそれらをごく普通に受け止め、日常生活を楽しく続けて行きます。

©つばな/徳間書店
『虫と歌』より『日下兄妹』
市川春子 [2009(アフタヌーン)/コミック/第14回マンガ部門審査委員会推薦作品]

虫、植物、海の生物、金属部品など、私たちの通常の概念とは違う命の形を持った家族との生活とコミュニケーション、そして愛と別離を描いています。『日下兄妹』 は、高校生の雪輝のもとに現れたタンスの部品が徐々に成長し、ついに妹のようになる話です。その妹、ヒナは実は流星のかけらで、最後には雪輝の故障した肩の部品となって雪輝の体と同化します。お互いを想う気持ちが読む者の心を暖めますが、ここで感情をやりとりするのは人間同士ではなく、無機物であることを改めて思うとき、異星人(エイリアン)との交流というテーマが持つ果てしないイメージの広さを考えさせられます。

©市川 春子/講談社
『僕は問題ありません』より『線路と家』
宮崎夏次系 [2012〜2013(モーニング・ツー)/コミック]

この作品には宇宙人も幽霊も妖怪も登場しませんが、コピーを繰り返して破綻したような絵柄、話の筋と関係なく唐突に挿入される情景や物体から、登場人物たちが果たして私たちの通常認識している人間なのか、またこれが現代なのか未来なのか、舞台は地球なのか分からなくなるような、狂った感覚を覚えます。ここで示されているのはキャラクターのレベルの混交ではなく、視覚情報レベルの混交であり、それは世界中で共有されるポストインターネット現象の一環であるかもしれません。

The Big Atlas of LA Pools
©宮崎夏次系/講談社

関連イべント

■トークイベント

「ファンタジーはどこからくるのか?ひらのりょうと語る、インスピレーションの源泉」
出演: ひらのりょう(出展アーティスト)
Carlos Rubio(コンプルテンセ大学教授)
Marc Bernabé(漫画翻訳家)
モデレーター:金澤韻 (企画ディレクター)
日時:1月23日(土) 17:00-(仮)
会場:Taller, MATADERO

出品作家ひらのりょうがオンラインで登場。本展キュレーターの金澤韻がモデレーターとなり、本展示を日本の視点と外からの二つの視点から論じます。日本のマンガや文学に精通したスペイン人研究者2名を交え、ひらの作品のインスピレーションの源泉となった日本社会・文化の独自性、特異性についてディスカッションします。

■文化庁メディア芸術祭受賞作品上映

日時:1月23日(土)19:30〜
上映プログラム:Portrait of Japanese Animation―日本の映像描写
会場:Taller, MATADERO

■ギャラリーツアー

日時:1月23日(土) 13:00〜 
会場:MATADERO Madrid, Nave 16


共催イべント

■国際交流基金メディアアートカンファレンス

「クロッシング・ポイント―日本のメディアアート/ゲーム/ポピュラー文化」
出演: 吉田 寛 (立命館大学教授)
大久保 美紀 (パリ第8大学造形芸術学部講師)
日時:1月26日(火) 16:00- 
会場:Medialab-Prado

■文化庁メディア芸術祭 受賞作品上映

日時:1月26日(火) 18:30〜
上映プログラム: Beyond the Technology―デジタル技術を超えて
エンターテインメント・アニメーション部門セレクション2015
会場: Medialab-Prado