上映プログラム

メディア芸術祭受賞作品 幸洋子特集

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幸洋子作品の視聴体験は、フリーマーケットで妙に魅力的な不思議な装飾の民芸品に出会った時に感じる感覚と似ている。それは作品のようであり、作者の人生そのものが刻み込まれた魅力的なギフトでもあって、非常に愛くるしい。そしてそれは、手に取りやすく、すごく手馴染みが良い。「作品」然とした、威風堂々とした佇まいをしておらず、気さくに手に取る事が出来る。が、しかし、何気なく手にとったら最後、家の棚に転がり込んでくる事になるのである。

 突拍子もない例えで表現したが、彼女の作品を鑑賞していただければこの感覚を理解いただくことは容易なはずだ。そして勘違いして欲しくないのは、いわゆる天才の所業でも天然の産物でもなく、まっとうに設計されて作られた「作品」である、という事である。そうであるにも関わらず、文化的背景、教養、立場、論理などによる取り繕いが無いとさえ感じられ、作品を鑑賞する者へ与える心理的なプレッシャーがすこぶる少ない。この事は作品を作ったことがある者ならば誰しもが考える一つの命題で、多くの場合は達成されない。しかし幸作品のほとんどは、そう感じられる作品になっている。シンプルであるがゆえに強度が必要な難易度の高いクリエイティブをなし得ている。端的に言って、めちゃくちゃ凄い!のである。

 これだけでも十分に幸洋子作品の魅力が伝わったのではないかと思うが、もう少し具体的にいくつかの項目に絞ってお伝えさせていただく。

 誘惑的エッセイ
作者の実体験に基づいているであろう作品がいくつかある。幸洋子を通して描かれる現実は非常に魅力的だ。あったようでなかった現実、思い出せそうで思い出せない現実がそこにあり、その世界へ強烈に誘惑してくる。その誘いが匠で、断ることが出来る人はそうに居ないだろう。

 寓話性と偶発性
幸作品の特徴として寓話的なストーリーテリングがある。抽象度が高く、外に開かれたストーリーであって、ジャンルやカテゴリーに縛られないし、あらゆる角度から咀嚼できるような構えになっている。また、表現手法としてアナログのマテリアルを多様する。その使い方の中でも特に顕著なのは、偶発性の許容だ。シンプルな好奇心による子供の実験のような感覚で素材と素材を自由に組み合わせた表現手法。それが寓話的なストーリーと同居する事によって、より外に開かれていく。

 笑える詩
通常の用法から離れた言葉遊びを「詩」とするならば、幸洋子作品はまぎれもなく映像詩でもある。意味や文脈の飛躍と超越を繰り返し、どんどんと無意味に向かっていくが、その無意味がまったく退屈しない。それどころか無意味なのになぜか笑えてしまうのである。これは、本当に本当の意味において「面白い」という事なのではないだろうか?作者本人に「とにかく笑えた」と伝えたら「そう、私も未だに笑えるんです」と返ってくる。これは異常事態だ。だが、まぎれもなくそれを作品として作っている事実にただただ圧倒されてしまう。

プログラム名:「メディア芸術祭受賞作品 幸洋子特集」
キューレーター:沓名 健一(アニメーター、アニメーション監督、大学講師)
制作:文化庁メディア芸術海外展開事業
映像尺:55:42
コピーライト:© 2022 Agency for Cultural Affairs, Government of Japan All Rights Reserved.


幸 洋子

アニメーション作家

1987年、愛知県名古屋市生まれ、東京都在住。幼少期から絵を描くことやビデオカメラで遊ぶことが好きだったため、絵を動かすこと“アニメーション”に、楽しさを見出し、日々感じた出来事をもとに、様々な画材や素材で作品を制作している。 主な作品に、幼少期の曖昧で不思議な記憶をもとに制作した「黄色い気球とばんの先生」、横浜で出会ったおじさんとの一日を描いた「ズドラーストヴィチェ!」、現代美術家鴻池朋子原作の詩「風の語った昔話」をもとに制作した「夜になった雪のはなし」、ミュージシャン清水煩悩と共同制作したミュージックビデオ「シャラボンボン」、自身の絵日記からインスピレーションを受け制作した最新作の「ミニミニポッケの大きな庭で」がある。 https://www.yoko-yuki.com/

BARIKAN 2010 元旦

2010 / 短編アニメーション / 0:03:01

© Yoko Yuki

ある動きのために連続する人体の動きを描くのではなく、切り出した人体のフォルムで新たな動きができないかと考えながら制作した。

監督:幸洋子

黄色い気球とばんの先生

2014 / 短編アニメーション / 0:04:23

© 2014 Yoko YUKI & Tokyo University of the Arts

隣のクラスの担任のばんの先生が、ある日突然頭をそってきた。生徒たちにハゲと冷やかされるばんの先生。そんなばんの先生がある日気球に乗り飛んでいってしまう。その後のことは誰も知らない。

声:幸洋子
音楽:阿部壮志
サウンドデザイン:滝野ますみ
監督:幸洋子
プロデューサー:山村浩二

ズドラーストヴィチェ!

2015 / 短編アニメーション / 0:05:36
第19回 アニメーション部門 審査委員会推薦作品

© 2015 Yoko YUKI & Tokyo University of the Arts

ある夏の日、海辺でロシア語を教えるおじさんに連れられ一緒に街へ出かけた。すると、見慣れたはずの街が普段と違う視点で見えてきた。おじさんは明日もきっと海辺にいるのだろう。

声:栩野幸知、幸洋子、一色あづる
音楽:窪田薫
サウンドデザイン:滝野ますみ
監督:幸洋子
プロデューサー:山村浩二

Lost Summer Vacation

2015 / 短編アニメーション / 0:02:30

© Yoko Yuki

こども時代の夏休みはとても長く、とても尊いものだった。こどもたちは夏休みの間にいろいろな経験をし、夏休み前より伸びた身長、日に焼けた体、旅行や宿題、暑い夏や涼しい夏、いろいろな体験をして新学期を迎える。大人になったって一緒さ。忙しそうな大人たちよ、夏休みは最高だ!ゆっくりしようよ 来たくなったらいつでもこればいい。終わることのない夏休みをあなたに捧げる。

サウンドデザイン:滝野ますみ
監督:幸洋子

大濠公園

2016 / 短編アニメーション / 0:09:26

© Yoko Yuki

2016年4月、タイの映画監督、アピチャッポン・ウィーラセタクンが福岡にやってきた。福岡に縁ある映像作家たちが集められ、三日間で映像作品を制作するワークショップが開催された。ともに福岡へ東京から渡った日本のアニメーション作家、水江未来氏の生まれついた公園をぶらぶらと散歩しながら原点を辿るドキュメンタリーフィルム。

声、アニメーション:幸洋子、水江未来
撮影:アピチャートポン・ウィーラセータクン
監督:幸洋子

電気100%

2017 / 短編アニメーション / 0:14:47

© Yoko Yuki

映像作家幸洋子が、友人の電子音楽作家”食品まつり”と銭湯に浸かりながらタイ旅行の話をする。タイでの記憶をさかのぼり、湯船でのぼせていくに連れて、記憶はだんだんと音楽になっていく。

声:食品まつり、幸洋子
音楽:食品まつり
サウンドデザイン:滝野ますみ
監督:幸洋子
プロデューサー:直井卓俊

夜になった雪のはなし

2018 / 短編アニメーション / 00:06:00

©2018Graphinica,inc.

ある日、雪は、やがて解けてしまう自分の身に危険を感じ、ミミズになった。ミミズは地上の世界に憧れて、木になった。憧れや強さを求めて次々に姿を変えていく雪は、いつの日か、かつての自分の姿を思い出す。

声:栩野幸知、幸洋子
サウンドデザイン:滝野ますみ
音楽:窪田薫
プロデユーサー:堀口広太郎
監督:幸洋子

シャラボンボン

2019 / ミュージックビデオ / 0:02:20
第23回 アニメーション部門 審査委員会推薦作品

© Yoko Yuki

清水煩悩の楽曲「シャラボンボン」のミュージックビデオとして制作された作品。「シャラボンボン」というフレーズが印象的な軽快なアコースティックサウンドにあわせ、鳥、花、人といった生き物が次々に登場する。ノイズ加工が施された蛍光色のような鮮やかな色の効果は、2Dアニメーションをブラウン管テレビで再生した映像を撮影することで得ている。

音楽:清水煩悩
監督:幸洋子

ミニミニポッケの大きな庭で

2022 / 短編アニメーション / 0:06:37

2022 ©︎ YUKI YOKO / Au Praxinoscope

縮んだはずが膨らんで、浮かんだときは沈んでる。 離れたつもりが繋がって、見てると思えば見られてる。 観察、記録、実験しながら日々を紡いだ、いとをかしアニメーション詩。

音楽:honninman
監修・プロデューサー:山村浩二
アシスタントプロデューサー:sanae
製作:オープラクシノスコープ
サラウンドミキシング:滝野ますみ
音響ミキシングスタジオ:アオイスタジオ
整音:三好沙恵
整音助手:時松碧
詩・アニメーション・監督:幸洋子